ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅳ 封印 】――1―― page2
翌日。ベクセリア町長の家にて。
「あ……お客様ですか?」
使用人のような風体の若い女性が一人、恭しく頭を下げた。
「私、リアンダート家執事の代理、ハイリー・ミンテルと申します。本日はどのようなご用件で?」
こういった堅苦しい雰囲気が苦手なマルヴィナ&セリアス、引き下がる。
シェナまで知らん顔なので、受け答えはキルガがする羽目に合う。
「……この家のご主人はお見えですか。会わせていただきたい」
「……分かりました。少々お待ちください」
ハイリーと名乗る女性は、二階へ上がってゆく。……足音がほとんどしなかった。
「……あの人」
「ん? ……ああ、身のこなしのこと?」
マルヴィナの呟きに、シェナが答える。
だが。
「……執事の代理って、その執事も病気なのかな?」
「……………………………………、……そっち?」
脱力。
「冗談。……あぁ、割と隙がなかったね」
「……あぁ、マルヴィナって、つくづく旅芸人よねぇ……」
「……どういう意味だそれは……」
「そりゃエラフィタで川にドボン落ちしたからねぇ」
「言うなそれをっっ」
「……あの、二人とも。話がどんどんそれてるけど」
キルガがそこそこのところで止めたおかげで、話は戻る。
「……えと。うん。……確かに、なんつーか鍛えてる感があったよね。
もしかしてあの人、正体女用心棒なんじゃないの?」
「……それは本気? 冗談?」
「本気」
「…………・・どんなよ、女用心棒って……あ、来た」
話が長引いていたのか、それとも町長を探すのに時間がかかったのか、
あるいは町長の部屋まで長かったのか。二分経過していた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
そしてもう一度、階段へ向かった。
ベクセリア町長、ラオン・リアンダートは、机に分厚い本を積んだ状態の部屋で待っていた。
「おお、あなた方が旅人の方、……ですか?」
語尾の音が上がる。つまり疑問詞。
マルヴィナは一瞬眉をひそめる。ラオンの、“こんな若造が”という声が聞こえたような気がした。
「えぇ。少々お伺いしたいことがあります。よろしいでしょうか」
……だが、ここでもキルガが活躍する。あっさりと、大人びた口調で用件を言う。
その様子にラオンは明らかに唖然とし、そして、「ど、どうぞ」と気を許してしまった。
……そんなわけで。
「はぁ、流行病、ですね。……実は、原因は分かっておらんのです。それでルーフィンの奴に……
おっと、失礼。私の娘の夫の学者に、昔の治療法を調べさせておるのですが……そろそろ結果が分かってもよい頃。
……しかしこっちから聞きに行くのも、……シャクじゃな……むぅ、どうしたものか」
いきなり悩み始めたラオンを、冷めた目で見るキルガ以外。サンディ含み。
「……それなら、僕が行きます」
あっさりと言ってのけるキルガ。マルヴィナは“僕が”に反応、
「ちょ、わたしも行くぞっ」
「だー、俺も行くって」
セリアスも続き、
「どーしよーかなぁ」
シェナがおどけて、
「アンタも来る!」
マルヴィナツッコミ。
「やっぱ旅芸人」
シェナが頷き、
「関係ないっ」
マルヴィナが再ツッコミ、
「……それでは、行って来まーす」
セリアスがそれをBGMに、ラオンにそう言っておいた。
ちなみに、
「あ、名前聞くの忘れた」
というラオンの呟きを聞いたのは、黙って廊下を掃除していたハイリーだけであったという余談もある。
***
――ピンポーン
「うわっ」
マルヴィナが身を引いた。
「何だこれは? 音が――」
『はぁい』
さらに女性の声がして、マルヴィナは数歩逃げた。ちゃっかり腰の剣に手を伸ばしている。
「なな何なんだこれは!? 物から人の声がするなんて聞いたことないぞっ」
キルガは物――インターホン越しに、中の女性と話していたため、説明役はシェナとなる。
「あれは“インターホン”って言って、機械の一つよ。家の中と外で、通話できるの。電話みたいに」
「そっ、……そうなのか? てっきりあの中に人が閉じ込められているのかと……」
マルヴィナの返答に、セリアスが吹き出す。
「剣に手なんか伸ばして……ウォルロ村にはなかったのか、インターホンは」
「あるわけないじゃないかっ」
「何気に失礼だぞ、ウォルロ村に」
マルヴィナは真っ赤になりながらセリアスをジト目で見る。
キルガの話し声が聞こえなくなり、しばらくして家の扉が開いた。
中から現れたのは、先ほどの声の主と思しき女性。
緑の、艶のかかった髪と、幼く見える笑顔を持つ――彼女が、エリザだった。
「ルーくん……あ、夫のルーフィンのことね。ルーくんは人見知りなの。
で、研究室に行きたい人はみんな私のところに来るんですっ。……あまりいませんけど」
天真爛漫な若奥様エリザは、説明しながら四人をルーフィンの研究室へ案内する。割と近かった。
着くなり、彼女は妙に独特なノックをする。中から、声が返ってきた。
「……エリザかい? こんな時間に、珍しいな」
「うん。パパのお使いの人だよー。病気の原因のこと、知りたいんだって」
しばらくの沈黙。
「……入ってもらってくれ」
そしてようやく許可が下りる。
ルーフィンはぼさぼさ頭をさらに無造作にかきむしって、椅子ごと振り返ってから眼鏡越しにエリザと四人を見た。
なるほど、変人そうだ。
マルヴィナはそっとそう思う。
まず部屋。窓は本棚の後ろだ。薄暗い照明が机にぽつんと立っている。
その下には書類。机の下にもある。多分、もう必要のないものなのだろう。
だったら捨てればいいのに、と思ったらゴミ箱の中は満杯だった。
次いで服装。もろ白衣。何の科学者かと思ったが、そういえば学者でした、
……あれ、学者と科学者ってどう違うんだろう……とかなんとか思っていたりするが、じろじろ無遠慮に見ることの失礼さくらいは常識として分かっているので、そこで観察をやめる。
「えっと……あぁ、原因でしたね」
「いやいやいやいや。ルーくん、自己しょーかい自己しょーかい」
エリザのツッコミに、ルーフィンは
「もう知っているんだろう、この人たちは」
……とかなんとか言う。
そういえばエリザにすら自己紹介をしていなかったことを今更ながらに気付いた四人は、
(ルーフィンへの皮肉も込めて)勝手に自己紹介を始める。
「……。わたしはマルヴィナ」
「えっと、セリアスっす」
「シェナでーす」
「……キルガです」
最後に紹介された名に、エリザは反応する。
「えっ、キルガさんっていうんですか? すごい、守護天使様と同じ名前――けほっ」
「?」
シェナがエリザの言葉の語尾に混じった音に眉を寄せた。一方キルガは少しだけ俯き気味となる。
「……偶然でしょう」
苦しそうに言う。そして、黙った。
「……まぁ、いいとして。本題の病気ですけど、原因、分かりましたよ」
微妙にスルーされて、マルヴィナはむ、と眉をひそめかけ、……止まる。
「……え」
「原因。聞きに来たんでしたよね」
「……そ、そだけど」
早ぇ! と言いそうになるのをどうにか止めるマルヴィナ&セリアス。
「さっすがルーくん! で? ……原因は、何なの?」
研究室が、シーン、と静まる。外の住民たちの声だけ、わずかに聞こえた。
「原因は……呪い、です」
「……はっ?」
だが、そのとき、なぜか外の声も途切れた……ように感じた。

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