ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅢ 聖者 】――1―― page4
暖かい日差しが辺りを照らすその部屋で――
シェナは、目を覚ました。
……
いつの間に寝ていたんだっけ。……あれ、でも私、今あの里に向かっているはず。
この部屋――あぁ、懐かしい。ここは、私の―――……
「―――――――――――――――――――――――っ!!!!」
瞬時に、複数の箇所のスイッチが入った。
がばっ、と身を起こし、立ちくらみ―いや、起きくらみ―をおこして倒れこむ。頭をぐらぐらさせながら、
けれどシェナはかつてないほどに焦っていた。故郷を懐かしむ余裕など、なかった。
(ど)
どくどくどく。心臓が大砲のように大音を奏でる。
(どうしよう――どうしようどうしよう!!)
頬を緊張させて、シェナは思った。
(ドミールだ、ここは、ドミールだ…………っ!!)
知られてしまっただろう。仲間たちに、自分は、天使ではないと。
天使と同等の力を持つだけの、地上の民に過ぎないと。
(ね、熱っ……!)
そう、熱。熱で、倒れたのだ。
馬鹿、自分を罵った。
ドミール出身だと、知られないために――どうにかして、里の民にばれないようにするか。口止めするか。
今更考えると、どう考えても不可能なことをやって見せようとしていたのだ。
その時からすでに熱はあったのかもしれない。
……焦って落ち込んで、そして――冷静になって、思った。
……おばあさまは? ケルシュは? そして――
嫌いだった、あの少年は?
命を懸けて自分を救おうとし、返り討ちにあい、それなのに私は何もできなかった、しなかったあの少年は、
今一体、どうしているの――?
「っ!」
音がして、シェナはそちらを見た。そして――止まった。
そこにいたのは。
「シェナ、さま……」
「ケルシュ…………?」
祖母意外に頼りにし、好きだった、騎士の姿だった。
・・
ケルシュは無事を祈り続けた少女を目の前に、思わず涙を流しそうになる。 ・・
だが、騎士の務めは。先にすべきことがある。なにより、騎士ではなく、ひとりの家族として、
言うべきことがある。
互いに静かになってしまったそこで――ケルシュは、シェナの前に立ち、膝を折り腕を水平に掲げ、
頭を垂れて敬礼をした。騎士のすべき、行動。
困惑するシェナの前で、ケルシュは言う――ずっと言いたかった、言葉を。
・・・
「お帰り――シェナ」
「!!」
いつしか、そう呼んでくれなくなった名。 ・・
従者としてではない、ひとりの、もうひとりの、家族として、呼んでくれたその名。
シェナは、思わず拳を握りしめた。
ゆっくりと立ち上がり、ケルシュの前にしゃがむと、その首に腕を回した。
「ただいま……ケルシュ……!」
彼女の眼に浮かんでいたのは、一粒の涙。
グレイナルだと、竜は名乗った。
その大きさ、存在感。圧倒される。だが――不思議と、猛々しさは、闇竜よりもかけているように見えた。
……それは、その歳のせいか。
「……わたしは、マルヴィナという。こちらは――」
「貴様ら」
マルヴィナが仲間を紹介するより早く、グレイナルは言った。
「……そのにおい、忌まわしきガナン帝国! 性懲りもなくまた儂を狙ってきおったか!?」
「え?」「は?」「ちょ」
マルヴィナ、キルガ、セリアスと、三テンポ綺麗に問い返す。
「はぐらかしおっても無駄じゃ、忘れるはずもない。……ならば儂とて容赦はせん、
年老いたとて舐めるでない。古の竜族の力、見せてやろうぞ」
「待った! ちょっと、待った!」マルヴィナが慌ててそれを止めた。「それは違う!」
「違うとな」グレイナルは嗤った。「この期に及んで弁解か。いつからそれほど見苦しくなった、帝国の犬よ」
「だから、違うって言ってるだろー!?」セリアスだ。「俺らは、あんたの力を借りに来たんだ!」
「僕らは、シェナの……この里の民シェラスティーナの、仲間です」キルガも言った。
「復活したガナン帝国に相対できる力を持つあなたに、協力を頼みたいのです」
「シェラスティーナ? ……あぁ、『真の賢者』か」
グレイナルはその爪で首筋(?)をかく。「……そうか、あの娘が帰ってきたのか」
「信じていただけますか」キルガは静かに、祈るように言った。だが、相手は相変わらずだった。
「帝国に捕まったというのならあの娘も、帝国の者となったという事か。
ならばこのにおいは、あの娘によるものということだな」
「おい」
セリアスが、抗議と、非難の声を上げたが、思ったよりその声は小さくなってしまい、相手には聞こえない。
「同じことだ、とにかく帝国のにおいを纏ったものに協力など」
「願い下げなのは、こっちも同じだ」
先に鋭く言ったのは、マルヴィナだ。キルガが、セリアスが、驚く。
彼女はその眸を、怒りに燃え上がらせていた。
「仲間を……わたしらの大事な仲間を侮辱する者に、もう用はない。ましてやあなたは
シェナをよく知るものだろう。ならば分かるはずだ、彼女が帝国なんかに手を貸すはずがないと!」
グレイナルはその大きな眼で、ぎっ、とマルヴィナを睨みつけた。マルヴィナは怯むことなく、睨み返す。
「……ほう、このグレイナルに、意見するか。それは無知ゆえか、若さゆえか」
「どうだっていい、とにかく仲間を侮辱する者に、手など借りない!」
キルガとセリアスは黙ったままだったが、マルヴィナの言うことを否定はしなかった。
どこかで、彼女と同じことを思っていたから。少し、彼女より勇気が足りなかっただけで。
この勇敢さを、キルガは好きになったのかもしれない。セリアスはこんな時にも拘らず、そう思った。
黙ったグレイナルに、踵を返しマルヴィナは仲間を促した。
「……帰ろう」
二人は、頷いた。その場から、足音が消えてゆく。
グレイナルは、その場で、少しだけ笑っていた。
あの向こう見ずな眸を、思い出しながら。

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