ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅹ 偽者 】――3―― page1


 マルヴィナは、ずっと考え込んでいた。
口数が少ない彼女に戸惑いながらも、三人は割といつもの調子で草原を進んだ。

 翌日の話である。
ナムジンの協力者となれた四人は、ナムジンの話を聞き、そして現在、行動に移している。
彼が言うには、シャルマナの正体を暴ける何かさえあれば、草原の民たちで総がかりで倒せるのではないか、と
いうようなことだった。
だが、その『何か』がなかったために、いろいろな討伐方法を考えていたとも。
が、草原の民ではない、自由ある旅人がいれば、話は変わってくる。その『何か』を、
もしかしたら手に入れられるのではないかと。
「いや簡単に言ってくれるな。まずどこにあるかが分からん」
 セリアスはそう言ったが、やらないわけにはいかない。
そろそろ時間がまずいからとナムジンが狩人の包に戻った後、四人はそこに残ってそろって唸っていたのだが、
そこに姿を現したのは――霊体であるナムジンの母パルであった。
 彼女は助言をくれた。正体を暴く『何か』――それは、この辺りの地にあると。

 ――ここから東、パルの故郷、及び魔物に滅ぼされた洞窟の中の村カズチャ。
その奥に生える守り神ならぬ守り草を、彼らは名の通り、アバキ草、と呼んでいた。
 邪悪の正体を明るみにする、魔法的な力を持つものである。
それさえ手に入れることが出来れば、シャルマナというもの――その果実を喰らった魔物の偽の姿を解ける。
彼女は、そう言ったのである。
 ……もちろんここで四人が思ったのは、やっぱりあったんじゃないかしらっとした顔で「知らん」など
言いやがって――類のことではあったのだが。



「……マルヴィナ。どうしたの?」
 遂にシェナが、問う。マルヴィナは視線を上げ、何が? と問い返した。
「何がじゃないわよ。何か、マルヴィナが静かだと、調子狂っちゃうんだけど」
「そんなこと言わ――ちょっとそれどういう意味だ?」
「うん、いつもの調子は機能しているみたいね」シェナは頷き、で、何か悩んでいるの? と聞く。
「いや、そうじゃなくて……うん。果実のこと、考えていてさ」
「果実」拍子抜けしたように、言う。
「……ここで入手できたら、六つ目だろ? で――七つ目は、一体どこにあるんだろうって思って。
ほら、今まで、あまりにもいい調子で見つけてきただろ? まだまだ世界は広いのに……最後の一つを探すのに、
時間がかかるんじゃないかって思っちゃってさ」
 確かにそのとおりである。が、それは今言っても仕方のないことだ。
それよりも重要なのは――見つかった時、である。
「まぁ、仮に手に入れることができたとして――七つ、揃ったとして。その時、一体何が起こるのか――心配なんだ。
言い伝えが本当なら、天使は神の国へ戻れる。けれど――わたしたちは? 翼も光輪もないわたしたちは、
一体どうなるんだ?」

 彼らの中に、沈黙が落ちる。そういえば、考えてもいなかった。
けれど、何故考えていなかったんだと言われるほど、単純かつ重要なことである。
 誰も何も言えず、しばらく沈黙が続いた。マルヴィナはその空気に焦り、最終的にゴメン、と慌て口調で謝る。
「いま、考えるべきことじゃないな。ゴメン、雰囲気暗くしちゃって。えっと……うん、…………」
 気の利いた言葉が思いつかず、やはり結局黙った。
それでも昼頃になると、ようやく普段と同じようなテンションとなったのだが、
マルヴィナの言ったその言葉を忘れることはできなかった――……。


   ***


 それから二日が経ち、ナムジンがやはりそう上手くはいかないか……と四人の旅人達のことを
考えていたまさにその時のことである。

「ナぁぁあムぅぅぅぅジぃぃぃぃぃぃぃンっ!!」

「はい」
 あ、帰ってきた、と、大声で走りながら凄い形相でさらに息を切らせるセリアスに、
あえて冷静っぽく振り返って見せた。後から残る三人が(ちなみに、キルガ、マルヴィナ、若干遅れてシェナだった)
セリアスより息を切らせてついてくる。
「みみ、み、みつ、見つけた、見つけたぞ!」
「感謝する。……お疲れさまです」
 ナムジンはキルガの無言のままに差し出された袋を受け取る。どうやら開ける気力もあまり残っていないらしい。
おそらく、セリアスに追いつくために全力疾走したのだろう。
 まぁ、その理由が、先日マルヴィナが惑わせた獣たちに再び見つかって追いかけられたから――と言うことまでは
さすがにナムジンも分かるはずがなかったが。
セリアスがどかりと腰を下ろし、キルガが前かがみになり息を整え、残る女二人は見た目を一切気にせず
だらりんと床に寝そべっていた。
 ナムジンは袋を縛る紐の[異国風]の結び目を不思議そうに見てから、何とかそれを解いた。
中から出てきたのは――草。

「これは……アバキ草?」
「あ、……知っ、てんのか?」
 大分息を整えながら(早い)、セリアスが尋ねてくる。ナムジンは頷いた。
「ということは、カズチャに向かっていたのか。昔、母上に見せてもらったことがある。
うろ覚えではあるが……煎じ方も、一応は分かる……これで、いける、いけるぞ!」
 ナムジンの口調は、ようやく念願を果たせる喜びに興奮したものとなっていた。
「ポギー!」
 ナムジンの声に、包の奥の棚から、ぐぎぎという声。一番近くにいたシェナが演劇的に驚き、床から跳ね起きた。
 そして、ナムジンが何かを言いかけた時――マルヴィナが、先に口を開く。
「ちょっっっと待ちなさいよ……まだ、時間は、あるんだから、あとちょっとだけ、休ませてほしいんだけれど」
 その言葉に、ナムジンは本気で何のことか分からず、固まった。
「ちょっ!?」マルヴィナは顔を上げる。「あんたまさか、この期に及んでわたしらに手伝わせない気でいたのっ!?」
「い、いや、まさかそこまでしていただくわけにも」
「ふざけんなぁ、見くびんじゃない! ここまできたんだ、最後まで手伝わせなさいよっ」
「は……はぁ」勢いに気圧され、ナムジンは考えること数秒、ようやく折れて頭を下げる。「お願いする」と。

 ようやく息の乱れが落ち着いてきて静かになった包の中で、四人は同時に頷いた。