ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅶ 後悔 】登場人物
__マルヴィナ__
人間界では19歳の元天使。
『職』は魔法戦士で、称号は“天性の剣姫”。
称号の通り、剣術においてずば抜けた実力を持つ。
自分の中に眠る謎の能力と記憶にとまどいを見せ始める。
__キルガ__
元天使でマルヴィナの幼なじみ。
『職』はかなり素早い聖騎士_パラディン_、称号は“静寂の守手”。
冷静で知識豊富でついでに容姿がいい。
マルヴィナに好意を寄せるが気付いてもらえない。
__セリアス__
元天使、マルヴィナの幼なじみ。
『職』はバトルマスター、称号は“豪傑の正義”。
記憶力[は]抜群。戦いに関しては誰にも負けない。
仲間に近づく不埒な男共を毎回悉く追っ払っている(笑
__シェナ__
セントシュタインで出会った、銀髪と金色の眸を持つ娘。
『職』は賢者、称号は“聖邪の司者”。
元天使の一人らしいが、その話題には触れたがらない。
のんびりとした性格だが、よく火に油を注ぐ発言をする……
__サンディ__
自称『謎のギャル』の超お派手な妖精(?)。
やや強引な性格。人間には姿が見えない。
最近出番が薄れがち。(というかほぼ出ないかも……)
天の箱舟の壊れた部分と格闘中。
__ラボオ__
エラフィタ村出身の老人。石堀職人。
クロエの元恋人だった。
__クロエ__
エラフィタ村、ソナの親友のおばあさん。
__クラウン__
カラコタ橋に住む元海賊。巷で“メダル王”と呼ばれる男の兄。
__デュリオ__
“デュリオ盗賊団”の統領。金持ちから金品を盗み、貧しい人々に分け与える。
どうやらシェナとは顔見知りらしいが……
【 Ⅶ 後悔 】――1―― page1
娘は、目を細めた。
当てもなく、大切な人を探し続けて、一体どれだけ経ったのか。それは、彼女自身にも、分からなかった。
北から東にかけて連なる山々の頂上は、うっすらと黄緑色をしていた。
もうすぐ季節の変わるこの辺りでは、この山頂の色を目印に、猛暑への対策を取り始める。
娘は、首を横に振った。
娘は霊だった。はるか昔に、とある小さな村で短い一生を終えた、哀れな女性。
黒珈琲_ブラックコーヒー_ の色を成した長い髪を、頭巾付きの 天鵞絨_ビロード_ ですっぽり覆っていた。
その娘の瞳にいまや、光はもうなかった。うとうとと微睡むときのような、ほうっとした影が映るのみ。
娘は、ふと足を止めた。町……のようなものが見えた。
もしかしたら、と思った。もしかしたら、いるかもしれない。
娘は走る。昼寝中だったらしい痺れアゲハや猛獣リカントは盛大に驚いて逃げだしたが、かまってやる余裕はない。
娘は、もう動くことのない心臓に右手を当ててスピードを緩めた。かすかに浮かべていた笑みも消えた。
そこは、町ではなく、集落だった。
だらしのなく、よろよろとした男たちが、上半身裸のまま地面に寝そべったと思えば、わざとらしく人の足に
つまずいて転び、慰謝料を出せ、とせびる男もいた。
ひどいところだ、娘はそう思った。あの人が、こんなところにいるはずがない。
それでも娘は、はしごを使って、橋の下へ降りた。北の山から流れる純粋なはずの川の岸に、
缶やビニル製の袋が積まれていた。
テントを覗き、宿屋の扉をすり抜け、酒場のカウンターへと回り込み……それでもいないことを確認すると、
娘は、はぁ……とため息をついた。
意外と小さな集落だった。一時間を有するかしないかのところで、大体のところは見て回った。
調べていないところはなかっただろうか。あぁ、あの奥のテントには、まだ行っていない。覗いてみよう。
どうせ、無駄かもしれないけど――
「うっわぁ、凄いっ」
はっ、と顔を上げた。ちょうど向かおうとしたテントに、若い青年たちがいた。しっかりと、中を覗いている。
服は少々くすぶってはいるものの、旅慣れた証である汚れ方だということが分かった。
明らかに、この集落の人々の服の汚れ方とは違う。
「えー、何が……っおぉおおっ!! マジかぁっ!」
明るい人たちだな、と思った。普段なら、それを鬱陶しいと感じるだろう。
しかし、今回は……そうは、思わなかった。
――あの人たちは……!
探していた人ではない。だが、あの雰囲気。
その旅慣れた若い四人―そう、ツォの一軒を解決し、漁ついでにこの大陸まで乗せてもらってきた
マルヴィナたちである―を追い、娘はテントの中へ続いた。
「っ!」
そして、目を閉じる。眩しい! そこは、あたり一面金色の、ざくざくの宝石にまみれた居地だった。
娘は唖然とした。貧しい呑気者たちの集うこの橋に、宝石だらけのこのテントである。ギャップが激しすぎる。
娘は唖然としつつも……追いかけてきた四人を、まじまじと、見つめた。
「すっげぇな、もしかしてここが、噂の“メダル王云々”?」
「……“メダル王の城”? いや……どう考えても、城には見えんが……」
「アンだてめぇらっ!?」
最後に、テノールとバリトンの間くらいの男の声がした。すごむような感じだが、彼らの力量を察しているのか、
妙に震えているような気もしなくはない。
「あらら、部下登場? うーん、ちょっち頭悪そう」
銀髪の、ウェーブがかったポニーテールの少女―シェナ―がくすくす笑って言う。
「ななななな、何をぉっ……」
「ほら」
シェナ、にっこり。罪の意識などありゃしない。
「てってめぇら、ここを何処だと思ってんだ!? ここぁ“キャプ――」
「“キャプテン・[メタル]の家”」
さばさばした感じの少女―もちろんマルヴィナである―が即答した、
……がその答えに妙に納得いかないのは気のせいか。
「メタ……」
男も気付いたらしく、口をぽかん、と開け、目をしばたたかせる。いわゆる間抜け面、というやつである。
マルヴィナはニヤリ、と不敵に笑って、「凄いな、このテントは」と言う。
「これだけ立派なんだ、さぞかし黄金の物は多いんだろう? ちょっと聞きたいことがあってさ、ここの主に」
「あー……別に金目のものが欲しいわけじゃないので……」
かなり誤解を招きそうな発言をしたマルヴィナの横からキルガが訂正するが、男の耳には聞こえていない。
娘はクスッ、と笑った。気のせいか。どこか、懐かしい感じがしたんだ……それでも。
やはり記憶の中に、彼らの姿は、ない。
娘は、ため息をついた。睨みあうマルヴィナと男の横を通り、念のためにテントの奥を覗く。
「ん?」
あぁ、やはりいない。……ところで、今、後ろで問うような声が聞こえたけれど……気のせいだろう。
だって、私の姿は、誰にも見えないのだから。
娘は、ふぅっ、と、もう一度溜め息をついた。霊となってからついた癖だった。
テントを出る。そして、また、当てのない旅へ向かうのだ。
彼女は、マルヴィナが自分を見ていることに、気付いてはいなかった。
ところで、その後、例のテノールとバリトンの間の声の雄叫びが聞こえ、ドカスカ殴り合いのような音がし、
呻き声もし、しばらくして静かになったのだが……やはり誤解した男が突っかかってきたのを
マルヴィナたち四人がとりあえず気絶させたという出来事があったということは、説明するまでもない。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク