ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】―― 1 ―― page3
世界を揺るがせた大地震。その後、このセントシュタインの国に全身を黒に染めた騎士が現れた。
彼の狙いは国民には知らされていない。だが、国にとって脅威の存在であるという。
国の兵士は、その兵士に戦いを挑んでは、ことごとく返り討ちにあったらしい。
「俺、前直接会ったんだけど。馬に乗っててさ。足払いかけたら逃げてったけど」
「臆病なんだな」
「馬がな」
セリアスは氷をがりがりと噛む。
「んで、何か知らんが見込まれて、……んで、何か知らんがこの国で戦士の『職』をもらった」
「そうなんだ。……キルガは?」
「僕は別の場所で聖騎士に、……[された]から断った」
「そうなんだ」
マルヴィナが呟いたところで、
「…………って、チョットさっきから全員無視しすぎなんですケド! アタシを忘れないでよねっ」
……いきなりサンディ登場。正直サンディの言うように忘れていた。
「あ、サンディ」
「お? 誰だよこの妖精?」
「だからサンディだって」
「可愛い」
「え、カワイイっすか? いやー、ありがとー。マルヴィナて石アタマで何も――おっと」
マルヴィナが頭をはたこうとして、見事にかわされていた。
「へー、みんな元天使なんだー。ドンだけいんのよ、羽なし天使。どーりであたしの姿が見えるわけだ」
腕を組みつつ、サンディはニヤリと笑う。
「んじゃ、みんな天の箱舟ちゃん使って天使界戻りたいってコトですよネ」
「え? ――何で天の箱舟の事知ってんだよ」
「あ、アタシ、運転手」
「………………」
マジかよ、と言う声が聞こえたような聞こえなかったような。
「んでさっ。アンタ達、コレ見える? 見えるコレ?」
サンディはマルヴィナの背の頭巾に潜ると、しばらくしてひょこりと出てくる。何かをつまむような仕草で。
「じゃーん! アタシは何を持ってるでしょー?」
三人の反応は、
「……は?」セリアス、
「……腕のブレスレット……なわけないか」キルガ、
「……何か持ってるの?」シェナ。
で、静寂。マルヴィナ苦笑。
「……見っ事に誰も見えてないんですケド……星のオーラよ、星のオーラ!
あんたらがチョー大事にしてたものヨッ」
再び沈黙。
「…………見えてないってことか?」
「……みたいだね」
「……」
三者それぞれの反応を見たサンディは、遂に深々溜め息をつく。
「……誰乗せても天使界行けないか。しゃーないマルヴィナ、黒騎士って奴。あれ、退治しに行くわヨ」
「はぁ!?」
マルヴィナは飲みかけの酒から口を離して叫んだ。喉に溜まっていた残りが引っ込み、ゲホゲホ咳き込む。
「言ったっしょ、星のオーラ集めりゃ絶対天使って認めてくれるって!
この国の人が黒騎士に困ってるなら助けるべきなんですケド。――だいじょぶ? マルヴィナ」
「生きてるから大丈夫でしょ」
「ひどいぞシェナぁっ!」
「ほら、元気になった」
返す言葉がない。
「……でもま、いいんじゃないか?」とりあえず無視して、セリアスは言う。
「俺ら四人の、初の戦い、ってな感じで」
単純だなオイ、と胸中でマルヴィナ。
「よし、んじゃ早速、明日城ん中行こうぜ」
「勝手に話を進めるな」
そう言いながらも、賛成する三人であった。
***
「よ、やっと朝か。寝れなくて大変だった」
「わたしも同感だ。いつもなら起きていられる」
「天使の影響だね。……僕も暇だった」
「――おはよう」
翌日。シェナだけがまともな言葉を言った。
「飯は?」
「いらないけど……ま、食べておこう。黒騎士に備えて」
と言ったマルヴィナ自身が誰よりも一番食べた。
四人はその後、場内へ足を進める。
「アリーシュ、通してくれ」
セリアスが城門に立つ若い兵士に声をかけた。
「ん? セリアス、お前、サボり?」
「違ーよ、今は戦士じゃなくて旅人。
……ほら、戦士にはなるけど、あくまで旅人のままで――って言ったろ?」
「はいはい、おめでたい奴」
「……なんか違わないか?」
と言う会話の中で、あっさり入城許可は下りた。
「広いな……」マルヴィナが目を丸くし、
「城だからねぇ」シェナがほのぼのと言い、
「……分かってるって」マルヴィナ脱力。
セリアスの案内で、王座の間の手前までたどり着く。意外に短かった。
しかじかの王宮作法の後、そのまま四人は王座の前まで行くことになる。
「……客人か? すまぬが、今は――」
発しかけた言葉を、その目にセリアスを写すことで止めたのがセントシュタイン国王。
そして隣にいるのが、セントシュタイン姫君、名をフィオーネといった。
「王様。決めました。黒騎士退治に、向かいます」
気取った風でもなく、ごく平凡な言葉でセリアスが声をかけた。
セリアスが一国の主と話してるーっ! とか思ったマルヴィナはそのまま唖然とした。
うむ、と満足げに頷いた国王は、次いでマルヴィナとシェナに目を留める。キルガはともかく、
昨日会ったばかりの二人を王が知るはずも無かった。
「……とりあえず、私たちにも話して欲しいんですけど……事の経緯_いきさつ_を」
シェナが首をすくめ、意見する。尤もな話だった。
王はおそらくセリアスやキルガにしたものと同じ説明を始める。
「黒騎士というものが、このセントシュタインを狙っていることは知っておるな?
あれの目的は、我が一人娘フィオーネ。そしてかの黒騎士は、今宵、フィオーネをここより北、
シュタイン湖に向かわせよと言うておる! だが、それを私は罠だと思っているのだ」
「……お父様!」
フィオーネの声を無視して、国王は続ける。
「普通、その場合は城の兵士を向かわせるのが妥当と言うもの。
だが、そんなことをすれば、この城の守りは薄くなる! おそらく黒騎士はそれを狙い、城に攻め込むつもりじゃろう。
故に、そなたらのような自由に動ける人材が欲しかったのじゃ」
「そんな、お父様! 見ず知らずの旅のお方を巻き込んではなりませぬ!」
「黙っていなさい、断じてあやつの好きにはさせん」
「……あんまりですわ……わたくしの気持ちを知りもせずに」
フィオーネはフイと顔を背ける。
(……ふうん……なるほど。……なんか、隠してるんだな)
マルヴィナは表情にも声にも出さず、そっと思った。
「とにかく。そなたらにはこれからシュタイン湖に赴き、黒騎士を退治してもらいたい。
うまくいけば、褒美を取らせよう」
国王は、玉座に座りなおした。

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