ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――2―― page2
「そういえば」
もう一つ思い出したことがあったのか、キースが続けた。
「おまえの友達もあの不良グループに入ってたけ?」
ナスカは問われてすぐに頷く。どうやらもとより話すつもりだったらしい。
「次にいなくなっちゃったのが、リュナって子なんだけど――てか別に友達じゃないんだけど――
悪い子じゃなかったんだけどね、みょーになんかなー、って感じでー」
といったなんかよく分からない説明が続き、「で、」と最後に一言、
「なんかそれから最近めっちゃ不良連れてかれてるじゃん? もしかしたら、
これってユーレイの仕業なんじゃないかって今もっぱらの噂なのよぉぉ!!」
……と叫んでしまった。もちろん、生徒の何人かが反応して、こちらの様子をうかがう。あ、まずい、とキルガは思った。
案の定。幽霊と言われて今最も反応する者たち――すなわちモザイオら不良グループ。
彼らが、ずかずかと――正確に言えばずかずかとやってきたモザイオについてきて――四人の前にやってくる。
ナスカがひきつった笑顔でやっば、と言い、キースがこの馬鹿、と頭を抱え、
キルガはため息をつき、マルヴィナは静かに待った。
「……てめぇら」
いかにもチンピラ気取りの様子で、モザイオはマルヴィナとキルガに睨みをきかせる。
「新参者がずけずけ知りたがんじゃねーよ、俺様の名前もばっちり聞こえたぜぇ?」
「威張ってるよ」
マルヴィナぽつり。いっそ清々しいと言えるほどにさらりと。
シェナがいないから挑発する人はいないだろう――と安心しきっていたキルガはがくっ、と脱力した。
(やはり最近シェナ化していっていないか……?)
見直すべきだ、とキルガは本気で思い……なんか朝も同じようなことを思った気がする。
いずれにせよ(と言うか当たり前なのだが)、不良たちを怒らせたマルヴィナに、モザイオはずいと詰め寄る。
「……んな顔して、随分言いてぇこと言ってくれんじゃねーか」
「……………………」
(顔?)と胸中で首を傾げつつ、マルヴィナは黙ってモザイオを睨み付ける。
自分が割と大勢から綺麗だと思われていることは、マルヴィナは自覚していなかった。
が、この状況は明らかにまずい。旅慣れたマルヴィナが不良ごときから不意打ちを食らうことはまずないだろうが、
それでも万が一のことがある。
そう思う矢先、さっそくモザイオは拳を鳴らしてニヤと笑う。
「……気に入らねぇなぁ。俺様に逆らおうっての? どうなるか、実際に教えてやってもいいんだぜ?」
「よせ」
マルヴィナが何言ってんだコイツと思っている間に、キルガの制する声が入る。
これ以上事を荒げないように、とマルヴィナとモザイオの間に割って入るように。
が、キルガもまたその行動の意味を自覚していなかった。
本人からすれば仲裁に入ったということなのだが、モザイオたち不良側から見ると――
キルガがマルヴィナを庇った、と言うように見えるのである。その行動は、不良の中でも特に
彼女いない歴一年以上の男どもを腹立たせた(というかガチで嫉妬していた)。ちなみに、モザイオも例外ではない。
「へーえ? お前、そいつの代わりに殴られようっての?」
からかいの口笛と、挑発。ちなみにこの状況をキルガが理解するのはもっと後の話なのだが、
とりあえず今この状態をどうすれば円滑にまとめられるか――と考えている間に、
相手の堪忍袋の緒はぶっちり切れる。
「無視かよ。――いい度胸してんじゃねぇかっ!!」
「あっ!?」
ナスカの悲鳴にも聞こえる叫び声、モザイオのうなる拳、向かう先はキルガ。
だが、キルガは。
――――――――――ぱしっ。
そんな一撃を、右手ひとつであっさりと止めてしまった。全く揺らぎなく。ぱしっと。
「…………は?」
瞬時にして、時間が止まる。
マルヴィナと同じく旅経験の長いキルガにしては、不良といえども素人であるモザイオの攻撃は
なんか前からソフトボールが飛んできた、程度のことにしか思えなかったのである。
だが、相手にしてみれば。華奢で頭が良さそうで(良いのだが)、
イケメンでイケメンでイケメンで(by彼女いない歴以下略の男ども)、人のよさそうな目の前の少年が
学園内でも有名な不良モザイオの攻撃をこうもあっさり止めてしまったことに唖然とするしかないのである。
マルヴィナがごめん、と片目を瞑って小さく謝り、キルガはそれを見て少しだけ笑い。
そして、未だ時を止め続けているモザイオに一言、
「あの」
ひっ、と首をすくめる取り巻きの連中。それには目もくれずキルガはさらに一言。
「……そろそろ、手をおろしてくれないかな?」
言葉こそ穏やかだが、言い方と表情は冷ややかなキルガに、モザイオは思わずそれに従う。
そして、素直に従ってしまった自分の行動に気付き、屈辱に表情を歪め――
「お、覚えてろっ!!」
なんだかよく聞きそうなセリフを残して、取り巻きたちとさっさか退散してしまった。
こんなくだらないことを覚えているくらいならもっと有意義なことを覚えるよ――とでも言いたげなキルガに、
マルヴィナは「ありがとう」と言うべく口を開き、
「きゃ~~~~~~~っ、キルガすっごぉぉぉぉい!!」
……ナスカに邪魔される。
「うぎゃ」
どーん、と突き飛ばされ(ナスカは自覚していなかった)、マルヴィナは言葉を飲み込んでしまい、
キースは暴走し始めそうなナスカを殴って止める。
そこから双子喧嘩を始めた二人を放っておいて、キルガはマルヴィナに目くばせした。
マルヴィナも、静かに頷く。
あとで、[奴]と関わってみよう。そう、思ったので。

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