ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅢ 聖者 】――3―― page2


 重い斬撃。
躱す。身をひねって半回転様に剣を振り下ろす。
斬撃の動きを止めぬまま、剣を頭上に、刃を刃で受け止める。
剣を離す。金属音。耳に障る。
腰を落とす、居合腰。
飛びのく、突き進む。
剣が擦れあう、ルィシアの気合一閃、炎をその剣に生じさせる。

(――火炎斬り!!)

 マルヴィナは顎をそらし、舌打ちした。魔法的な技も使うのか!
髪が数本、焼けていた。厄介だ、と思った。
上から、下へ。速い。重い。
言うまでもない、相当の実力者。マルヴィナとほぼ互角だった。一体誰に習ったのだろう、
どうして魔法的な技が使えるのだろう――そんな考えは、今は頭には入ってこなかった。ただひたすらに、
目の前の敵の動きを見極める。
このままの状況が続けば、あとは体力、あるいは刃のこぼれ具合がモノを言う。ろくに観察せずに取った剣は
あまり良い使われ方をしていなかったらしく、心もとない。
早く、なるべく早く。速攻で終わらせられるような技術を、自分は持っているだろうか。


 ―――――ある。


 たった一つだけ―― 一撃必殺の強力な技が、ある。
だが、成功するかはわからない。もともと物理的な戦いを主としてきたマルヴィナにとって、この技――
[魔法的な技]は非常に難易度が高い。キルガに手伝ってもらいながら、鍛錬し続けた、この技。
 ……やるしかない。できるかどうかじゃない。やる。

「――――っは!!」
「!!」

 ルィシアの火炎斬り、再び突かれる不意。炎で隠された刃は見切ることができない。
「がっ!!」
 横腹を、剣が裂いた。たちまち紅くなる。思わずその場で、よろめいた。
(しまっ)
 マルヴィナが頬を引きつらせる、ルィシアが勝利の確信を笑みに乗せる。
「く、っ………………!!」
「終局!!」
 殺った。ルィシアは、そう思った。
 一瞬だけ。

 マルヴィナが鋭く叫んだ、その微妙な体勢から、彼女は後ろへ飛んだ――

 空中へ。

「なッ!?」
 さしものルィシアも驚いた。まさか――まさか、あの傷で、あの体勢で。
剣は上から振り下ろした。そんな中で宙返りなど――下手するとそのまま体に刃が突き刺さりかねないその行動。
あり得ない、だが実際にあったその行為に、ルィシアは一瞬、けれど確かに、あってはならない隙を作った。
 膝を深く折り、腰を落とし、マルヴィナは剣を横に、両手で持った。
意識を集中させる。

 雷光。稲妻。光電。稲光。光輝。

「――――は」

 轟け。唸れ。気を溜めろ、溜め込んで――

「―――ぁぁあ」

 溜め込み続け、そして――――


「―――――――――――――っあああああああああああああああ!!」





 ――――――――――――――――――爆発せよ!!





 稲妻が駆ける、響く轟音。黄金の雷電を、剣に生じさせ、一閃する、その名は。

 『雷光薙剣技』―――

「……っギガスラッシュ――――!!?」

 ルィシアの叫びは、最後まで聞こえなかった。
手加減など意識の外に飛ばされていたマルヴィナの一撃必殺を、驚愕したままもろに喰らい――
がっ、と声を上げ、背を強かに打ち据えて――ルィシアの手から、剣が抜け落ちた。

「……………………っ、は」
 剣を両手に構えたまま、マルヴィナは荒い息を繰り返した。
横に倒れるルィシアの姿を認識できるようになると――マルヴィナは、はっとして剣を地面に落とした。
乾いた金属音。疲労に、足の力が抜ける。
「かっ、た」
 どうにか呟くが――疲れすぎた。動けない。だが、戦いは終わっていない。
ルィシアは肩で荒く息をし、どうにか立ち上がろうとするが、ままならない。
――終わった。ルィシアは、思った。ここで、あたしも終わりか。

「――マルヴィナ!」

 チェルスの声がした。よく知っていた者の声が。
――そう、そして、あなたも言うんでしょう? ……とどめをさせ、と。


「殺すなよ。死なせるな! そいつには話がある、交代だ!」
「……ぅ、交代……?」
「あんたの役割は援護だ、戦うのは奴らに任せな――あんた、魔法使いか魔法戦士の経験は?」
 後者、と呟く。正直、喋る余裕さえ失われつつあった。
「悪いが戻ってくれ。その技で援護しな――」言いつつ、マルヴィナの額に指を突き付けるチェルス。淡い光。
回復したわけではない。だが――全身を巡る、変化の風。
異なる力を取り戻した、感覚。

「……え?」
「それであんたは魔法戦士にもどった、あと少しだ、終わったらなんかおごってやる」
 素早く言って――チェルスは、困惑顔のマルヴィナを押し、未だ倒れるルィシアの前に立った。