ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅱ 人間 】―― 3 ―― page1


 ――ウォルロ村。
 何とか無事だった二人は、(と言うかマルヴィナは)ズッキー、スラピ、スラらんの三匹に礼を言って別れた。
「ありがとう、マルヴィナ。……えっと、宿屋は?」
「あ、あっちに」
「ありがと。――そうそう、お礼はまた改めて」
 ぱちっ、とウインクを決め、ルイーダはスタスタと行ってしまう。
(……なんて人。雰囲気がまるで違う……すごい大人っつーか)
 思い出すのはラフェットの姿だ。


「さすが、リベルトさんの宿ね」
 マルヴィナも気になって宿屋に入ったとき、ルイーダはリッカと話していた。
「父さんのお知り合いの方ですか? ……あっ、もしかして……ルイーダさん!」
「ご名答。――ところで、リベルトさんは?」
「…………」
 リッカの表情が変化し、声が小さくなる。遠くにいたマルヴィナまで声は届かなかったが、
「――ええっ!? な……亡くなったって、ほ……本、当……?」
 真実を告げられたことは、分かった。
「……何てこと……あの、伝説の……それじゃあ、セントシュタインはっ……!」
 リッカもマルヴィナも、さすがに話が見えなくなり、ただルイーダを見つめた。
そこでリッカは初めてマルヴィナがいたことに気付く。
「…………待って」
 だが、ルイーダが呟いた言葉に気をとられる。マルヴィナもそうだったため、問題はなかったが。
「ってことは、今はこの宿、貴女一人で経営してるのよね?」
「そ、そうですけど」
「……うん。ここっていい宿だわ……さすが伝説の宿王の娘」
「…………あの、さっきから伝説っ――」
「ねぇ貴女!」
 リッカの言葉を最後まで聞かず、ルイーダはいきなりカウンターを叩く。
バコンッ、とすごい音がしたが、本人はいたって気にしていなかった。
 ビクッ、とリッカは身を引く。
「貴女……セントシュタイン城で宿屋をやってみる気、ないっ!?」
「………………え」
リッカは呆然。そして、マルヴィナと同時に、

「「……ッええええええええええええええっ!?」」

 盛大に驚いた。

 叫んだのはいいが。

 当の本人、リッカはセントシュタインに行く気はないらしく、
それでもルイーダは宿王が去った今宿はピンチだと言い張る。
 宿王ってなんですかとリッカが聞けば、
並みいるライバルを押しのけ宿屋を大きくしたまさに宿の王、それがロベルトだと言う。
 だがリッカはそんな父親、性格からしてありえないと答え、対しルイーダはそれが事実だから……

 ――といった、聞いていて唖然とするような議論(?)が行われていた。実際、聞いていたマルヴィナは唖然とした。
 結局時間は夜となり、リッカが夕飯を作らなければといって出て行ったところで話合いは中断した。
 ちなみに、「絶対行きませんから!」の一言を残していっている。
「むぅ~……なかなか頑固ねぇ」
 あなたがいえることじゃないと思う、とは賢明にもマルヴィナは言わなかった。
「長期戦になるかな」
 充分長かったです、とはやはりマルヴィナは賢明にも言わなかった。
 とりあえずマルヴィナはリッカを追い、彼女の家へと走った。


「――?」
 そして、気付いた。
 その、リッカの家の前に、あの、幽霊のおじさんがいることに――
「……。あの」
「うひゃうっ」
 何気なく声をかけただけなのにかなり驚かれ、マルヴィナまでもがびくりとする。
「……ヘッ? あなた、私が見えるんですか? 私とっくに死んでいるんですよ!?
――って、そういえば遺跡であった時も私に気付いたんですよね……」
「ええ、まぁ」
「ところで、貴女は?」
 マルヴィナは一つ息を吸うと、言う。
「人に名前を聞くなら、まず自分から名乗りなさい」
「おっと。これは失敬。私はロベルト、リッカの父親です」
「……ああ! そうだったんだ! へえ……っと。わたしは、マルヴィナ。リッカにはお世――」
「マ、マルヴィナさん、ですって? まさか貴女、新しい守護天使様――」
 その時。

「そこ、ちょぉぉぉおおっと待っっったああああぁぁああっ!!」

 何かの声がした。