ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――2―― page3


 二日目が終わり、三日目。
三日目も終わる――その、少し前。
夕食の時間帯である。


 四人はそれぞれ調査結果を出し合い、まとめると、以下のようになった。


・誘拐されたのはいずれも十代、非行少年少女たち
・モザイオ率いる不良グループに属していた
・幽霊の噂有(実際に見た、と言う人もいた)
・誘拐ではなく勝手に抜け出しただけではないか? という意見も
・消えた生徒たちは勝手に寮を抜け出すところを度々見られている
・明日の夕飯はグリルチキンらしい


「ちょっとまて、誰だ最後のやつ聞いたのは」マルヴィナである。
「明らか関係ないね……」キルガが頬杖をつき、嘆息。
「絶対明日最初に食べてやるっ」
「そっちかい!!」とは、セリアス。なんだか似たようなことが前にもあったような。
「とにかく、まとめると、次に狙われる可能性が極めて高いのはその不良グループたち……ってことよね?」
 シェナはグリルチキン云々をだれが書いたのか想像がつきつつも無視して、
人差し指を 頤_おとがい……あごのこと_ にあてて視線を上げた。
「あぁ、でもなんとなく、次に狙われるのはモザイオなんじゃないか……って噂が流れている。
本人は気にしていない風を装っているが、多分内心ではビクついているだろう」
 キルガも頬杖を解かず、唇に左手の親指を当て、考え込む。こうやって見るとなんだかこの秀才二人がお似合いに見
「ってことは!」
 と、いきなりセリアス。驚いてシェナが考え込むのをやめ、
キルガも左手をおろす。マルヴィナは目をぱちくりとさせる。
「…………えっと、モザイオってやつに、注意を払えばいいんだな?」
「え? えぇ、まぁ……どうしたの?」
「えっ、何が?」
「……いきなり大きな声出して」先ほどの状況を知らないほど集中していたシェナは恐ろしいほど無自覚に尋ねた。
「え、あ、いや、別に……あれ?」セリアスは首を傾げ、「何でだっけ?」と自問自答。
「ひらめいたからだろ」マルヴィナ。「そういう時って、叫びたくなるでしょ」
「あぁ、そゆこと」シェナ納得。
 和やかな雰囲気に戻った四人、マルヴィナの後ろで、

「ドンだけニブいのよこの集団」

 サンディがひとり呆れていた。




「そーだ、そういやもう一つ、すげぇ朗報だぜ」
 調子を取り戻したセリアス、手始めにおめでたい情報を示す。
「じゃじゃん。実は女神の果実のことだが――ラスト一個、どうやらここにあったってことで間違いねぇぜ」
 マルヴィナはパンに伸ばしかけた手を、キルガはグラスを持った手を、シェナは紙を耳にかけようとした手を――
それぞれ、瞬時に止めて。そして。

「ふえぇぇぇえっ!?」

 相も変らぬマルヴィナの珍妙な叫びを聞く。


「マルヴィナ、今更突っ込んでもしょうがないかもだけど何? その珍妙な叫び」
「イヤすんません、驚くとたまに……ってのはどうでもいい、ここにあったんだな!? 果実が」
「あ、あぁ」ノリツッコミをしたマルヴィナに目をしばたたかせつつ、セリアスは頷く。
「学校の創立者――初代エルシオンの墓に頭がよくなりますよーにって捧げた奴がいるらしい。
……いやちなみにもうないが」
「……………………………………」三人、沈黙。やはり最後まで事前には果実には手が届かなかった。
 ずぅぅぅん、と落胆した三人を見て、セリアスは慌てて繕う。
「やっぱ初代が食っちまったかね? ほら、ユーレイってさ、もしかしたらそいつかもよ!
……あ、となると今回の犯人になっちまうか」
 苦し紛れに適当なことを言って見せて――あれ? と一時停止するセリアス。
笑わせようとした三人も別の意味で固まる――

「アレ? 俺なんかマズいことでも」
「セリアスっ」
 キルガが思わず立ち上がって顔を上げ、セリアスを呼ぶ。
「はっはいっっ」
「それ……正解かも、しれない」

 今度はセリアスが叫んだ。


   ***


 エルシオン学院の授業のうち六日に一回は、学院の方針『文武両道』の『武』の時間――
すなわち、一日『武術』を習う時間とされている。
『特別授業』と称され、自らの学びたい科目をとり、それに勤しむのだ。
その日はいつもより授業が早く終わるので、あまり勤勉でない学生たちからするとホクホクな日でもあるらしい。

 キースが言っていたように、モザイオは剣術をとっていた。

「……………………」
 もちろん剣をとったマルヴィナはその日、[二番目]にモザイオに目を付けた。
ちなみに、仲間たちはそれぞれの愛用する武器を習える場所へ行っている。槍や弓はともかく、
斧などと物騒すぎるものを習えるというのには若干驚いたのだが。

 マルヴィナは新入生と言うのもあり、皆の前で紹介される。名乗り、軽く頭を下げる。さりげなく笑顔で。
とりあえず好感を持たせたほうが動きやすい。
もちろん計算したわけではないが(そこまで人付き合いを避けたがるわけではない)、その効果はしっかりと発揮し、
よろしくー、という歓迎の声がぽつぽつとあがった。
実力のそこそこあるものはマルヴィナの力量を少なからず読み取り、不敵に、あるいは期待して笑って見せる者もいた。

(……ま。まずは、周りからかな……)
 真っ先に攻めたりはせず、モザイオを知っていそうな周りの情報収集から始めることにした。
 基礎運動の際ペアを組んだのは、17歳くらいの少女だ。彼女はミチェルダ、と名乗った。
「マルヴィナ、結構剣の腕凄いっしょ? なんか立ち居振る舞いから素人っぽくないよ」
 気さくに話しかけてくるミチェルダに、自慢にも謙遜にもならぬよう、
「やってみないと分かんないかな」と答えた。この答え方はキルガに教えてもらったのである。
「にしても、よかったよ。あたし実はこの中では二番目に新しく入ってさ。……や、もう三番目か。
んで、二番目に入ってきたなんかこわそーな子と組んでたから、気まずくってさ」
「恐そうな子」復唱する。「……誰?」
「ほら、あそこ。一人でやってる」
 ミチェルダの視線の先には、ひとり人の輪からは少し離れた場所で長座体前屈の形をとっている、
マルヴィナより少し暗めの闇色の髪を高い位置で結えてあとは無造作に垂らした、
端正だが冷たさを感じさせる同じ年くらいの娘がいた。
「……………………………………」
 マルヴィナは目を細めた。そして――口の中で、ほぼ声に出さず、やはり、と呟いた。


 モザイオには[二番目に]目を付けた。
 では、[一番目]には? ……それが、彼女だったのである。

 マルヴィナが感じ取った気配、それは―――――……



「ルィシア、って言ってたけ」
 ミチェルダが続ける。「なんてかさ、あたしはあの人すっごい強いんじゃないかって思うんだよね」
「あぁ」マルヴィナは側近をよく伸ばしながら答える。「……わたしも、そう思う」
「今この中でいっちばん強いのはさ、あの不良……モザイクとかいうやつなんだけど」
「…………モザイ[オ]?」
「あれ、[オ]だっけ? まぁどっちでもいいよ!」
 いいのかよ、とは胸中だけでツッコんでおいた。
「しょーじき、あいつより強いんじゃないかってかんじなんだよねー。でもなんとなく、マルヴィナのほうが強そう」
 ミチェルダは相手の力量を見計らえる人物でもあるらしい。
他人事のように言う彼女自身も、なかなか見どころがありそうだ、とマルヴィナは思った。
 至る所の筋肉をほぐしながら、マルヴィナは今後の予定を頭の中で組み立てていた。
モザイオの憎々しげな視線を感じる。ここは、予定通りだった。


「まさかとは思うけどさぁ、まさかマルヴィナの奴モザイオにケンカ売りつけたりしないだろうな?」
 “まさか”を二回言って、セリアス。最近シェナ化している気もしなくはない彼女のことである、
まずない、とはキルガも断言できなかった。
槍と斧は外で行われるため、この二人は割とあっさり会えるのだが、体育館兼講堂にいるマルヴィナはもちろん、
格技場にいるシェナもなかなか交流が取れない状態である。

「しかしマルヴィナが誰かと関わろうとする日が来るとは……」
「しかも男だしな」
 む、とキルガの表情が心なしか強張る。セリアスも割と狙って言ったので、その反応に少々吹き出す。
「……マルヴィナはそう簡単になびかない」
「お前がそれを言ってどうするよ」
 キルガも言った後に、確かに、と思い直す。そして落胆する。お前はピュアか、とセリアスが胸中でツッコむ。
 なんだか妙な空気が流れた頃、二人の耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。

「おつかれ、お二人さん。……何? この微妙な空気」

 それは弓の道着に身を包んだシェナである。なかなか会えないと言った後にこれである。
落胆したまま顔を上げないキルガに変わり(とはいえ落胆していなくてもだろうが)セリアスは引いてから
「なんで来れた!?」
 と問う。それに対しシェナは居丈高に言う。
「え? 当たり前じゃない。すっぽかしよ」
 真面目に言うな断言するな悪気ない表情をするなとはセリアスは言わなかった。
とりあえず落胆キルガとなった状況を簡単に説明。するとシェナは先ほどと同じように、あっさりと言葉を紡ぎだす。
「じゃあ見に行けばいいじゃない」
「はぁ?」
「心配なら見に行って、なんか雰囲気良さそうでもまずそうでも阻止してあげればいいんじゃないの?」
 それはどっちにしろ阻止しろと言うことではないのか? とキルガは思ったが、それは口に出さず、
「それはマルヴィナに悪い」と落胆した時の声のまま言う。
 若干呆れ気味に半眼で苦笑するセリアスは、あぁどうでもいいからコイツに闘志を与えてやってくれと
シェナに目線だけで言う。それが彼女に伝わっていたかは別として、ともかくシェナは少し考えてから
少しだけにやりと笑ってキルガの耳元に口を寄せる。

「マルヴィナは[剣術強い人]に一番ときめくのかもよ? 今この状況で剣術強い男っていえば――」

 最後まで言わせず、キルガの頭がいきなり上がる。半死人みたいだった目が別物のように開いている。
何事かと驚くセリアスにしっかり向き直ると、

「行こう、今すぐに!!」

 きっぱり言い切って返事も待たず体育館に向かうのであった。
(訂正。お前は単純か!!)
 セリアスはもう一度胸中でツッコみつつ、一言二言で心情をあっさり変えた仲間に苦笑したのだった。



 ところでサンディはというと、

「やっばマジぱねぇぇ何あのスタイル! いーなチョーかわいーアタシも真似しよっかなー」

 いろんな生徒を見物しては、自分のギャルスタイルについてよくよく考えていたのだが、まぁ今は関係のない話。