ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――3―― page5
「っっ!?」
その瞬間、シェナは宙を浮いた。
否、何かに引っ張られたのだ。……何に? 今触れているものといえば、マルヴィナ。
(まさか……この、剣?)
そしてマルヴィナも――剣に引っ張られるように、この攻撃をかわしたのだ。
(ど……どういうことっ?)
「隙ありっ!!」
セリアスの声がする。驚愕していたのはシェナだけではない、毒虫もだった。
その一瞬に見せた隙を――キルガとセリアスが見逃すはずもない。
二人は何の前触れもなく、ピタリと息を合わせて毒虫に突っかかる。
一思いに脚は切断され、急所には聖なる槍が深々と刺さっていた。
断末魔の叫びを耳にこびりつかせ、魔物は、深い闇の波動を起こして――消えた。
攻撃した後の体勢を元に戻し、二人はマルヴィナに駆け寄る。なおもまだ、彼女は震え続けていた。
もう一人、意識をなくしたマウリヤへは、隅で震えながら観戦していた誘拐犯たちが駆け寄る。
「お嬢さんっ」
が、反応は……ない。
デグマはそれを確認し――冷や汗を流し――静寂の中で、呟く。
「やべぇ……お嬢さん、……死んでる」
「あ……兄キぃぃぃっ」
マルヴィナを二人に任せ、セリアスは立ち上がる。いや、マウリヤは死んではいない、正体人形だから……と
まさか言い出せるはずもなく、とにかく落ち着くようにと声をかけようとした、その時。
「……あぁ、びっくりした」
……マウリヤはまばたきし、ゆっくりと立ち上がったのである。
(やば)
セリアスの思った通り、誘拐犯たちはその顔を恐怖にひきつらせ、そして……気付いた。
妖毒虫に切り裂かれたはずの首筋は、傷はあっても――血が一滴も出ていなかったことに。
「うっ」
デグマは呻き、そして……叫ぶ。
「うわぁぁぁぁっ、化け物だぁっ!!」
「化け物だー!」
調子よく最後を合わせ、クルトも叫ぶ。洞窟には、その悲鳴と、二人の逃げる音が四方八方から響いた。
「……………………っ」
マルヴィナがようやく顔をあげた。まだ不安げに首をすくめながら、マウリヤを見る。
「…………もの」
呆けたように立ち尽くす、マウリヤを。
「……ばけもの。みんなから嫌われる、悪い生き物……」
「……!? 言葉の意味を、知っているのか……?」
おそらくは、初めてまともな反応を見せたのだろう。今までものの名を知らず、頓珍漢な返答をしていた彼女が、
誘拐犯の言葉の意味をはっきりと理解し、感情を出していた。
「……わかってるの。みんな、ものが欲しいだけなの。マウリヤはほんとはいらないの……」
涙の出ない瞳――だが、マウリヤは泣いている。涙を流せず――泣いている。
「マキナのためにおともだちたくさん作りたかった……けど、わたし化け物だから、むりなんだ……」
違う……! その三文字を、叫びたかった。だが……言ったところで、彼女を救えるか?
第三者である者が言ったところで……彼女を。
―――違う。あなたは、化け物なんかじゃない―――
『大切なおともだちよ。マウリヤ』
その時、マキナの声が響いた。
「マキナ! お帰りなさい。ねぇ、今までどこにいってたの?」
人形であるがゆえに上手く表現できない感情。偽りのない笑み。
だが、それはマキナの心を痛めつける。こんなわたしに、笑ってくれる……。
『マウリヤ……ずっと一人ぼっちだったわたしを、あなたは支えてくれた……でも、今は、あなたが』
「なぁに?」
意味を理解することなく、マウリヤは無邪気に問い返す。そのマウリヤを、
するりと抜けてしまうのにもかかわらず、マキナはきゅうと抱きしめた。
『ごめんなさい……ごめんなさい。もう、わたしの願いに縛られないで、自由になって。
わたしはマキナ、あなたはマウリヤ。マキナは遠い国へ、天使さまと旅立ちます。
だからあなたも、元のお人形に戻って……』
マウリヤはゆっくりと、まばたきした。
『マウリヤ……わたしの大切なおともだち。……』
……ありがとう……
最後の言葉を残して、マキナは昇天した。
「わたしはマウリヤ。マキナは遠い国へ旅立つ……」
マウリヤはマキナの言葉を復唱した。
「……マキナが旅立つってこと……みんなに言わなきゃ……」
おぼろげに呟くと、マウリヤは、ふらふら、一人洞窟の外へ向かった――……。

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