ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――4―― page2
「っ!?」
まさかのその行動に、さすがの兵士たちも度胆を抜かれた。
が、マルヴィナは。剣姫の名の如く、優雅に微笑むと――
「っ……せぇぇぇいっ!」
そのまま、気合の声を発し、深く腰を落として――回転。キルガと戦っていた兵士にぶつかり、
そして、そのままその腰の剣を奪い取る!!
「な、」
「何ィ!?」
驚愕の声を受け止め、マルヴィナはその勢いを止めることなく一気に相手の懐を薙いだ。
間一髪で兵士はその攻撃を避けたが、並の者では確実に腹を切り裂かれていただろうというほどの早業だった。
しかも、たったそれだけの行動で、この重さと鋭さゆえに持ちにくいこの複雑な剣は
まるで忠実な生き物のように、マルヴィナの手にぴったりと馴染んだのである。
「なんだとっ。我らでも慣れるまでに幾年もかけたというのに……何故、貴様が瞬時に使いこなすことができる!」
「すげーぞマルヴィナ! さすがイザヤールさんの弟子!」
セリアスが勝ち誇ったように叫ぶ。キルガもまた、呆然とした兵士の隙を突き、
「マルヴィナの剣の実力を舐めるなよ!」
誇るように、そう叫んだ。
「イザヤールだと……!?」兵士が呟き、その後、にやりと笑う。「そうか……そういうことか!」
マルヴィナは重く、速く剣を唸らせる。兵士はそれを辛うじて受け止める。
が、この恐ろしく剣の腕に冴えた天使は、勝利の確信を表情に出した。
このまま戦いが続けば、不利になるのは明らかに兵士の方である。
果実はあきらめた方がよい。大丈夫だ、新たな、否――思った以上の収穫があった。
この不覚は帳消しにできる。
「……ふ、仕方ない、果実はあきらめるとしよう……!」
「えっ!?」
叫んだのはもちろん、部下の兵士二人である。思わず動きを止めた時にできた隙を見逃すはずのない
キルガとセリアスは、そのまま体当たりし、冷静にそれぞれの武器を突きつける。
セリアスは武器が斧なので、ほぼ断頭台のような状況だったが、動けない兵士は既に覚悟でもしたのか
目を思い切り閉じていた。
マルヴィナは交錯した剣にさらに力を込めながら、逃がせまいとする。
が、敵は素早く身を翻しそれを躱すと、そのまま嘲笑うような視線を彼女に向けた。
そしてそのとき、兵士は――飛んだ。[跳んだ]のではなく。
「天使よ……覚えておくが良い! 貴様らは必ずいつか斃される。必ずな……」
だんだんと、トーンダウンしてゆく。兵士は空に消えた。呆然とする彼らの前に、油で光る羽がひらりと落ちてくる。
「……キメラの翼だ」
マルヴィナは苦々しげに言った。突きつけていた武器を元に戻し、キルガとセリアスがマルヴィナの後ろから
その羽を覗きこむ。置いて行かれた兵士二人は、明らかな不利を感じ取り、
すぐさま近くを流れていた川へ飛び込む。鎧の重みでフォームが取れないものの、派手に水飛沫を立てて逃げ始める。
「……行ったか」セリアスが呟く。
「ガナン、帝国……」キルガが復唱し――首を、傾げた。
「おかしいな。初めて聞いたはずなのに……知っている気がする」
「キルガもか?」セリアスだ。「俺もそう思ったんだ。バカな話だけど、それどころか……関わったことまであるような」
マルヴィナはその二人の会話に驚き、二人もなのか、と呟いた。
が、あえてそうは言わず、別の話題を出す。
「……ガナン帝国……何故、イザヤールさまのことを知っているんだろ」
「それに」キルガはシェナの様子のことを言おうとして、口をつぐんだ。
馬鹿馬鹿しい考えだった。そんなことがあるはずがない――そう言ってその考えを消したかった、が、
消したい一方で、その可能性を否定できない自分がいる。
シェナが、あの帝国とつながりがあるのではないか、という、その考えが。
「なんか……嫌な予感がするよ。すごく……嫌な……」
マルヴィナは呟き、不安げに敵国の剣を握りしめた――……。
***
翌日セリアスは、がばっ! と跳ね起きると、 白金鎧_プラチナメイル_ を装着――しかけて、止めた。
鎧の重さに既に慣れてしまったので、何も着ていないようでむしろ若干戸惑ってしまう。
が、慣れれば結局楽であった。おっしゃ、やるぞ、と気合を入れてから、一気に腹筋と背筋と腕立て伏せを
各二百回ずつとなんとなくイメージトレーニングを済ませると、朝のジョギングと言うには早すぎるスピードで
宿を出て船着き場まで走る。
「おじさん!」
あっという間に着いてしまい、だが大して息も乱れてはおらず、そのままセリアスは叫んだ。
漁師ジャーマスにである。
「おぅ、セリアス。早ぇな」
「そりゃそうっすよ!」にっと笑ってから、次に仲間の肩をポンとたたいて、
「おっす、マルヴィナ」
ようやく挨拶をする。
が、マルヴィナは凶悪な仏頂面で「……おはよ」と呟く、あるいは[唸る]と、
「……あんたさ。いきなり“おじさん!”はないだろ。わたしにかと思ってつい
“わたしは女だ!”って思ったぞ」
「はは、悪ぃ悪ぃ。つーわけで、おはようございます、ジャーマスさん」
「おぅよ」ジャーマスはそこらの岩ほどにもある拳を引き締まった腰に当て、にやりと笑った。
「よし、セリアス。今から俺が船乗りの基礎からみ~~~っちり教え込んでやる。ついて来れるかっ!」
「ついて行きますっ!」
「よぉし! よく言ったぁ!」
叫ぶ男どもを前に、マルヴィナは「……ついて行けんわ」とかなんとかなんとか呟き、早々に退散する。
マルヴィナはその後、自分のフードを覗き見た。果実は――四つ。
マキナの家の裏の、小さな墓に――それはあった。マキナの墓。
そして、そこに寄り添うように、人形マウリヤは座っていた。
もう動かないマウリヤの横に、果実は残されていたのである。
そして彼女の言伝で、船はマルヴィナたちに譲る、ということになった。
彼らは手を叩き、伸び上がって喜んだのだが、
「誰が動かすのヨ」
というサンディの珍しく冷静かつもっともな意見の元、彼らの歓喜は空気の抜けた風船の如く
しゅうううう、としぼんでいったのだった。
そこで手をあげたのがセリアスである。彼は四人の中では機械や仕掛けなどを解くのが最も得意であった。
そのことから、だったら自分が船を操縦すると言い出したのである。
だが、彼も当然船というものを人間界に落ちて初めて見たので、右も左もわからない状態だったのだが、
そんなセリアスに指導(?)してやると出てきたのがジャーマスであった。
……というわけでこの状況なのだが。そんなことを思い出しつつ、マルヴィナは集まった果実を見て、
ひとりにやにやと笑っていた。おそらく誰かが見ていたら怪しい人だと思われただろうが、幸い周りには誰もいない。
それにしても。もしかしたらわたしたちって、凄いのかもしれない、と少しだけ自惚れてみる。
もう果実が四つも集まったのだ。折り返し地点。嬉しいし、誇らしい、――のだが。
(…………………………………………重い)
……やはりさすがにフードに四つも入っていると首が絞まる。
(あ~頼むセリアス。早く乗れるようになって。んで倉庫かなんかにしまわせてくれぇ)
と。
「だいじょぶ? マルヴィナ」
そのフードがいきなり軽くなる。「はぶっ!?」若干吹き出しつつ、マルヴィナは面食らって振り返る。
そこには、昨日の様子はどこへやらの、ひょうひょうとした表情のシェナがフードを掴んで立っていた。
「しぇ、シェナかぁ。びっくりした」
「なんで? ――あ、これ、ハイリーさんから。今回の事件解決のお礼だってさ」
「礼」マルヴィナはきょとんとして、シェナの差し出した白布の袋を受け取る。じゃらっ、と音をたて、
ずっしりとした重さを感じつつ、袋の紐を解く。……中には銀貨と、若干金貨が入っていた。
「…………………………………………うわわわわわわ」マルヴィナ乱心。
「た、た、大金じゃないか。こんなに受け取れない」
「んー。いいんじゃない? それにしても、ハイリーさんてお金持ちなのねぇ」
どうやらこの貨幣はすべてハイリーが用意したらしい。マジかよ、と言いそうになるのをこらえつつ、
マルヴィナは恐縮しつつもシェナに返しておく。
「キルガは?」受け取って、シェナは尋ねた。
「町長のところ」
「そ。……あれ」
答えてから、シェナは首を伸ばし、遠くを見た。ハイリーの姿が見えたのである。
「うーん……やっぱりハイリーさんて、謎よねぇ……行動といい、このお金といい……マルヴィナ?」
ねぇ、と同意を求めようとして――マルヴィナの目が、困惑と警戒の色になっていることに気付いた。
シェナは戸惑い、見比べる。相手は視線に気づかない。シェナは首を傾げる。
が、マルヴィナは、その時思った。
ハイリーの、気配、生気が――
……例の帝国に似ている、と。

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