ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――2―― page3
四人はからくり屋のおじさんを加えて再びマキナ宅へ。行ったり来たり忙しい。
シェナがマルヴィナの後ろにつきながら、あたりを見わたし――ふっと、視線を止めた。
町の民の中に、見覚えのある人物がいたような気がしたのだ。
背中を見せ、何かが入っているらしい大きな袋を担いで歩いていく、あらくれの男。
「……あいつ……」
「ん? どしたのシェナ?」
マルヴィナがその呟きに反応して、問うた。シェナは、何でもない、と応え、マルヴィナの後ろを追った。
すっかり人気のなくなった屋敷に入り、彼らは遠慮がちにマキナの部屋へと足を踏み入れる。
手を付けていないままのケーキがぽつんと、妙に悲しく置き去りにされていた。
さらに奥の扉の前にからくり屋のおじさんが立ち、ノックをする。反応はなかった。
「……・?」
ドアノブに手をかける。かちゃっ、と小気味いい音がして、若干部屋の中が見える。
「……ちょっ、まさか今度こそ中でうわぁぁぁなんて――あでっ」
すかさずセリアスにシェナチョップが決まる。
「寝ておられるのだろうか」
ふうむ、と唸るからくり職人。キルガが「そういえば」と急に声を出す。
「……さっき、怪しげな男がいませんでしたか? やけに大きな袋を持った……なんとなく、引っかかる」
「あぁ、いたな。あらくれみたいな――」マルヴィナの言葉が途切れる。急いで、その場で叫ぶ。
「……・開けてくれ、嫌な予感がするんだ!」
さっと青くなった表情と、切羽詰まった声に、セリアスが「……やめてくれぇ」と情けない声をあげる。
「マルヴィナの悪い予感、外れたことないんだからよ……」
言われるがままに扉を開け、ざっと部屋を見渡す。マキナの姿はなかった。出かけたのだろうか。
いや……それならいいが、何故、こんなにも不安なんだろう……。
「何か、消えたものはありますか?」キルガだ。「何でもいい。あなたの方が詳しいはずだ」
キルガはマルヴィナの“嫌な予感”を信じ、からくり職人に尋ねる。もう一度部屋を見わたし――
「……人形が……」
そう、呟いた。
「人形」マルヴィナとキルガの声が重なる。
「あぁ。マキナさまの等身大の、本当にそっくりに仕上げた人形だ。
マキナさまは病弱で、外には出られなかったからな。少しでも友達として思ってくれるようにと考えて」
ふぅむ、と三人が唸った時。
「…………おい。これ…………」
セリアスの、三人を呼ぶ声がした。隣にいたシェナが、一枚の羊皮紙を突きつける。
羊皮紙には、こう書いてあった。
【 娘は預かった
カネを持って北の洞窟まで来い 】
「……こ……これって」
マルヴィナの考えたことは、他の四人と同じであった。
「た……大変だ……っっ」
からくり職人は、急いで屋敷を飛び出すと……町の住民たちに向かって、叫んだ。
「マキナさまが……マキナさまが、さらわれた!」

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