ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――1―― page3


 いよいよ潜入捜査開始である。マルヴィナは、さて誰から情報収集しようか……と考えていたのだが、
その心配はさほどなく、好奇心旺盛な生徒からさっさと話しかけて来てくれる。
「ねぇっ! 新入生よね!? あたしナスカ、よろしく!」
 マルヴィナは少々驚いたが、慇懃に笑い、自己紹介をし返した。
「ねぇねぇねぇねぇところでさぁ、キルガ君。キルガ君いるでしょ。マルヴィナと一緒に入ってきた人」
 どうやらキルガの存在は既に知られているらしい。早いなぁ、とやはり微妙にずれた考えを持ってから頷く。
「ちょーカッコよくない。彼女いんのかなぁ。あー気になるっ」
「……………………………………」目をしばたたかせるマルヴィナ。
が、一瞬だけ、視線をさまよわせてから――「さぁ?」と答える。
「いないいない。つーか、片思いならいるケドねー」
 頭上で、サンディ。あ、いたんだ、と思いかける。
「ナスカお前、いきなり困らせんなよ」
 ナスカが再び口を開いた時、後ろから声がかかる。同い年くらいの男子である。隣に、キルガも苦笑して立っていた。
が、ナスカは気付かず、まだ話している。ついにその男子が、ナスカの頭をはたく――若干音が大きかった。
「いった!! ちょっと、女の子に向かって何すんのよっ!」
「おれがいつ女の子を叩いたのかぜひとも教えてくれ。この場にいる女子は一人にしか見えないんだが?」
「殴るわよ!?」
「どうぞご勝手に」
 いきなり喧嘩(っぽいもの)を始めた二人に、「双子なのか」「いいね、仲よさそうで」「そーお?」と
キルガ、マルヴィナ、サンディ。
その呟きに、二人は同時に止まる。
「……・えーと? 何で分かったの?」
「未だ言ってないよな? それ」
 困惑の仕方まで似ている。何でと言われても、そう見えるから、としか答えられなかった。
「えっと……とりあえず。おれはキース、察しの通りこいつの双子の兄貴だ」
「ばか、何言ってー。あたしが姉でしょがっ」
 ぱちっ、と一瞬火花の音が聞こえたのは気のせいか。
 マルヴィナは、その間にそっとキルガに目配せした。キルガが頷く。
情報収集は、この二人から主に進めて行こう。そう思ったので。




 やはり生徒という身分となった以上、授業というものを受けなければならない。
幸い、マルヴィナとキルガは隣同士であるが(ちなみに、セリアスとシェナもそうらしい)、初の授業は
まさかのいきなりの抜き打ちテストだった。抜き打ちも何も、入ってきたばかりだっつーの、とマルヴィナは思ったが、
その内容が世界地理だったために、旅の経験から何とか乗り切ることにした。
抜き打ちの割に全クラス同時に行っているらしく、この時間だけ学院全体が静かになっていた。
(……助かった)
 そしてマルヴィナは、テスト内容を見てそう思った。世界地理、というより世界地図、の問題である。
提供・ダーマ神殿、とまで書いてあった。
ようは、国町村の名称を書いたり、台地や山脈の名を書き記したりすればよかったのである。助かった。
「………………」問題に恐ろしいスピードで答えを書いていくマルヴィナは、ふと、
地図の真中、北寄りを見た。黒い靄みたいなもので、塗りつぶされている。そこに解答欄はなかった。
(……やっぱり、ここに何があるかは、分かっていないんだな)
 いくつかを品定めしてから最終的に旅商人から買い取ったマルヴィナたちの地図にも、
そこに何があるかは記されていなかった。以前、カルバドへ行く際、若干の嵐に襲われて
道が大きく外れてしまい、旋回するべくこの辺りを航海したこともあった。
が、どこを見ても崖となっていて、そこがどんな島であるのかはさっぱりわからなかったのである。

(……そう言えば、奴らの本拠地は、どこなんだろう――)

 ガナン帝国である。広い範囲を旅してきたマルヴィナたちだが、未だそれらしき場所を知らない。
まさか――ここなのか。この、断崖絶壁の位置に、その城を構えているのだろうか。
マルヴィナは、こつこつ、とその黒い靄を指で叩いた。