ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 】  登場人物紹介


 __マルヴィナ__
   人間界では20歳の元天使。
   『職』は魔法戦士から然闘士へ転職。称号は“天性の剣姫”。
   剣術において天才的であり、どんな剣でも瞬時に使いこなす。
   “記憶の先祖”を巡り戸惑いながらも旅を続ける。

 __キルガ__
   元天使でマルヴィナの幼なじみ。
   『職』はかなり素早い聖騎士_パラディン_、称号は“静寂の守手”。
   冷静で知識豊富でついでに容姿がいい。
   最近、自分の感情に関して悩みがち。

 __セリアス__
   元天使、マルヴィナの幼なじみ。
   『職』はバトルマスター、称号は“豪傑の正義”。
   記憶力[は]抜群。機械いじりが得意。
   人付き合いが割とうまい。寒いのが若干苦手。

 __シェナ__
   セントシュタインで出会った、銀髪と金色の眸を持つ娘。
   『職』は賢者、称号は“聖邪の司者”。
   ガナン帝国に捕まっていたという過去を持つ。
   魔法の腕前が格段に上がったため、『賢者』特有の最高位呪文を意識し始める。



 __サンディ__
   自称『謎のギャル』の超お派手な妖精(?)。
   やや強引な性格。人間には姿が見えない。
   マルヴィナのフードがお気に入り。

 __モザイオ__
   エルシオン学院の生徒。典型的な不良のリーダー。
   剣術の腕はとりあえず学校内で一番良いらしい。
   仲間の行方不明に対しても、楽観的な様子。

 __エルシオン学院長__
   名前は不明。ただ、学園長とだけ呼ばれる。
   若干お茶目なおじいちゃんで、マルヴィナ曰く「第二のオムイ様」。

 __キース__
   エルシオン学院生徒。ナスカの双子の兄もしくは弟。一言で、おちゃらけた少年。
   人付き合いがよく、わりと人気。

 __ナスカ__
   エルシオン学院生徒。キースの双子の姉もしくは妹。一言で、明るい少女。
   記憶系は苦手らしい。

 __ルィシア__
   モザイオと同じく、学院で剣術を学ぶ。長い黒髪を高い位置で結わえてある。
   常に無表情、無感情。構え方からして、おそらくモザイオ以上の剣の使い手なのだろうが……。

 __マイレナ__
   闇色の短髪、翠緑の眸、三百年前の伝説“賢人猊下”。
   有能な賢者だが、それらしさはかけらもなく、いろんな意味で謎というか不思議というか、
   ……いや、『意味不明』と表すのが一番当たっているような性格。
   遂に、マルヴィナの“記憶の先祖”についてを語る――。




【 ⅩⅠ 予感 】――1―― page1


「……随分と楽しい答えだな」
 紅鎧の兵士は、そう言った。
「申し訳……ありません」兵士の前で、未だ[遊牧民の姿をした]男が頭を垂れた。
「今回の戦闘にて、奴は、剣を使用しなかったのです。ですから……分かりませぬ」
「言い訳など求めておらぬ」兵士は言う。
「……もう一度だけ、機会をやる。奴らを追い、そして、再び奴の剣の実力を確かめて来い。
……ただし、もう一度だということを、忘れるな」
「………………御意」
 男は、顔を伏せ、言った――……。









「さっむぅぅううぅぅ!!」
 それから、幾日か過ぎた今日。
 キルガ除く三人と、今回はついてきたサンディは、揃って悲鳴を上げた。
「うぅ……ぐしっ。サンディ、船で待っへへ良いっつったはろ?」
 寒すぎて上手く閉じない唇をどうにか動かし(若干言えていないが)マルヴィナはそう言ったが。
「何ソレ。アタシを追いだそーったってそーはいかないんだからネ」
「ひやそうじゃなくて……ひぃぃっ寒いっっ」
 エルシオンへ向かう道、エルマニオン海岸――気温がかなり低く、雨が凍るほどだという話を聞いていた。
まさかそんなことが……と半信半疑で来たらこれである。素直に信じればよかったと誰もが後悔する。
 マルヴィナは袖なしのうえ、ワンピース風の旅装なので、腕と腿が寒く、セリアスは左右非対称のこれまた袖なし、
シェナとサンディは露出度が高いために至る所が寒い。
もっとも寒さ慣れしているキルガはというと、普段まくり上げている長袖を元に戻せば良いだけなので、
肌が直に寒さに触れることがない。当然ほかの四者からとてつもないジト目で睨まれたが、
どうしようもないのでとりあえず無視した。
「い、いいい、一回、休まない? ちょうどあそこに、いいものがあるし」
 シェナが指したのは、雪で作られた小さな洞穴のようなものである。
「雪の家……? いやかえって寒いだろ」
「雪が当たらないよりましよきっと」
 言うなり、まだ首を傾げるセリアスを置いて、すたたたた、とペンギン歩きで洞穴によるシェナ。速い。
「うー……」すとん、とそこに(ご丁寧にも)ある同じ雪で作られた椅子に座り、一息。
「これが噂に聞くカマクラってやつね」
「それ、誰の言葉?」
「噂」
 マルヴィナが次いでやってきて、シェナが答える。セリアスも結局来て、思ったより暖かいことに感嘆の声を上げる。
キルガは最後に来て、一番入口に近い位置に座った。
「しばらく雪がおさまるまで待とうか」キルガは笑ってそう言った。
「おー寒。グビアナが恋しいなマッタク。……おいキルガ、お前一番暖かいんだろ。もうちょい外に」
「横暴な。僕だって寒くないわけじゃない」
「文句言うなー」
「言っているのはセリアスだと思うのは僕だけか?」
「はいはーい。わたしも思うぞー」
「私もキルガに賛成ー」
「ちょ!? 俺の味方なし!?」
「サンディに味方してもらえ」
「断る!」
「ブッ飛ばす!!」
「いきなりハモるな」
「サンディ、不可能なこと言わない」
 などと和やかに(?)話している間に、ようやく雪もおさまってくる。
それぞれの方法で手や腕を温めたおかげか、ようやく動けるようになってきた。

「……大分、やんだな」
「そうね」
「そろそろ行くか?」
「まぁ……こんな地では野宿はしたくないしな。早めに行っ」マルヴィナの話途中、いきなりかまくら襲撃。
どかどすぐしゃっと、かまくらを思いっきり壊そうとする音がする。
「……あれ? これってまずい?」セリアス、
「まずい」シェナ、
「ちょ! コレ崩れるんじゃね? 逃げた方がイイ系?」サンディ、
「いい系」マルヴィナ、
「つかマジで崩れるっ」再びサンディ、
「魔物かっ」最後にキルガが立ち上がった。
 派手な音を立てて、遂にかまくら崩壊。中にいた人間はおそらくつぶされただろう――と思っていた魔物たちは、
「…………っのやろぉぉっ!」いきなり体勢を低くして雪を払い現れたセリアスにビクッとする。
「お休みタイムに邪魔をしてくれるなんて、いい度胸してんじゃない……!」
 黒い妖気を漂わせながら、シェナ。一番怖い。
 キルガだけはとりあえず沈黙を守っておく。
戸惑い気味だった魔物……の群れは、だがその瞬間、人には発せ得ない雄叫びを上げ、突っかかってくる。
仕方ないなぁ、と、[それぞれは]武器を構え、敵をまっすぐに睨んだ。


 敵は計五匹いた。
これは手っ取り早く全体攻撃しかけた方がいいな、とシェナは思った。
シェナは呪文体制をつくり、それによって防御の疎かになった彼女を狙う魔物を阻むべくキルガは敵の動きに集中。
片っ端から攻撃を仕掛けるセリアスに下がるように言い、シェナは 爆発呪文_イオラ_ を唱える。
雪が派手に飛び散る。敵の内三匹が倒れる。が、その中の一匹はまだ、動けるようだった。
「うー……寒」
 雪がやんだだけましなものの、やはりまだ肌に当たる風が冷たい。
とりあえず残る魔物をキルガとセリアスに任せ、のんびりと傍観するシェナであった。
休み場所を崩壊されたキレ具合から会心の冴えを見せたセリアスの攻撃に、魔物はそう経たぬうちに全滅。
「おっしゃ、温まった」
 ふん、と満足げに息を吐くのであった。
「あー……そっか。そう考えてみれば。私も動けばよかった」
「まぁ、そろそろだろうし、早めに行って休もう」
 苦笑して、キルガ。そーね、と楽観的にシェナはこたえ、三人は歩き出す。



「……………………・[三人]?」
 が、三歩歩いて、キルガ。
「ん? ……あれ、マルヴィナは?」
「え? ……あ、そういえば」
 よくよく考えてみれば、さっきの戦闘の時すでにいなかったような気がする。
「またステルスじゃない?」
「いやそれだったらまた俺を脅かす悪趣味なことをやってきそうだが……
……ほらやっぱりいない」
 いたら即座に「誰がそんなことやったんだ!?」と反応してくるだろうと思ったセリアスは、
あたりを見回して―― 一点に、目を止める。
 つられて、キルガとシェナも。
視線の先は――崩壊したかまくらの雪の山。
「………………」
「………………………………」
「…………………………………………」
 三人、顔を見合わせる。
「まさか……」
「いや、まさか……」
「まさかね……」
 が、いきなりもぞもぞそこの雪が動き出す。聞き慣れた不満の声も聞こえてくる。
「「「……………………………………」」」
 数秒の間をおいてから、あわてて三人は雪の山に走った。







「つくづく、わたしってこんな目にあってばかりだと思わないか……!?」
 マルヴィナがガタガタ震えながら思いっきり不機嫌に言う。さすがに肌の冷たさが尋常ではなかったので
キルガは羽織っていたベストをマルヴィナに貸した。
「いや本当ゴメン。マルヴィナのことだから、まさかあの襲撃から抜け出せないなんてことはないかなーって」
「……抜け出せなかったぞ」
「って言われましても」
 ねぇ? とシェナに同意を求められても、答えを濁すしかない男二人。
「あ、で、サンディちゃん無事?」
「あぁ……おーいサンディ……いないか。さすがにあいつは逃げたよね」
 マルヴィナはフードを確認して、溜め息を吐く。その中にも雪がぎっしりだた。
 マルヴィナ除く三人が再び顔を見合わせ、首を傾げるその横で、マルヴィナはフードをひっくり返し、雪を押し出した。
が、そこに雪以外のものも落ちてくる。きょとん、とするマルヴィナと、予感が当たったとばかりに
微妙な顔のまま固まる残り三人。
それは、ガチガチに固まった、褐色で、派手な姿の、小さな――



「あぁぁぁサンディっっっ!!」



 やっぱり、と言わんばかりの三人。
「……凍っているな」キルガ、
「生きてるー?」シェナ、
「イヤ死にゃしないだろ」セリアス。
「…………急ごうか。サンディのためにも」
 若干足取り早く、四人はエルシオンを目指す。