ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――2―― page1
――翌日。
珍しく早く寝て、ぐっすりと眠ったはいいが、これまた珍しくちっとも起きてこないマルヴィナを、
ひっぱたきくすぐり怒鳴り耳を引っ張り挙句の果てにはチョップまで一発かましたシェナだが、
やはり何をしてもダメである。普通なら何かしらの状態異常を考えるだろうが、しつこく寝返りを打ち
もにょもにょ何かを呟いているのだから、やはり寝起きが悪い問題であろうということが分かる。
というわけで、シェナはついに最終手段をとることにする。軽く身構え、
マルヴィナに向かって[投げないように]するために集中し、そして。
「…………ドルマ」
マルヴィナの頭上で、ぶぉすぶぅすぶぉすぶすっ、という何とも珍妙な音がして、
「ひいっ!?」
マルヴィナ、いきなり生じた闇の気配に、戦闘の危機感を覚えてがばっと起床。シェナは慌てて唱えるのを止める。
目を高速でしばたたかせ、呆然とするマルヴィナに対し、「おはよう」とそっけなく言うのであった。
「しぇしぇしぇシェナぁぁっ? アンタなんてことをっ……」
「はい、さっさと準備する」
さらりと受け流される。
憮然とした表情でマルヴィナはフェンサードレスに腕を通す。そんなマルヴィナに、
シェナは「珍しいわね」と話しかける。
「何が?」
「だから、一番最後に起きるなんて。セリアスじゃあるまいし」
隣の部屋からセリアスの盛大なクシャミが聞こえる。
「んー……なんか、目覚めがすっきりしないなぁ……こんなにいい宿だったのに」
「えぇ?」シェナは眉を片方持ち上げる。
「私はぐっすりすっきりよ。……まさかマルヴィナ、睡眠薬でも飲んだ?」
茶化すつもりで言ったのだが、マルヴィナは何と「……それかも」と言い出した。シェナは引く。
薬草がいい例であるように、人間の薬も天使には効く。可能性は否定できなかった。
「……なんだろ……昨日の夜から、どーもねぇ……」
「か、[仮にも]女性であるマルヴィナに睡眠薬って……い、異常はないわよね!?」
「……仮にも、ってなんだ仮にもって。わたしはれっきとした女だ……でも、気にはなる……あ」
あくびをしかけたマルヴィナ、そこで目をしっかり見開く。急にベッドの下を覗きこみ、
そこに隠した女神の果実を確認する。問題ない。三つ、確かにそこにあった。マルヴィナは嘆息した。
「よかった。もしこれが狙われたら、シャレになんないしね。危ない危ない」
「そうね。……って、まさかほんとにその果実狙われたんじゃないでしょうね……?」
シェナは訝しんでそう呟く。マルヴィナは肩をすくめ、「まぁ、シェナが来た以上、
確認できなくなっちゃったけれどね」と言う。問い返すシェナに、マルヴィナは個室の扉を指した。
「下の方。……見えるだろ? テープが」
シェナが扉の下に目をやると、なるほどそこに、傷を負ったときに使用するテープが、扉が開くと
剥がれる位置に貼ってあった。つまり、この部屋に誰かが入ってきたのなら、テープは剥がれているはずなのだが、
無論、シェナがマルヴィナを起こすために入ってきたので、今はくっついてはいない。
「シェナが来る前には剥がれていたかどうか、分かんなくなったしね」
「……………………………………・」
シェナ絶句。しまった、と冷や汗混じりにようやく呟く。
マルヴィナは笑い、考えすぎかもしれないし、いいよ、となだめる。シェナは微妙な表情で頷くのだった。
***
マキナの家は、ハイリーの言った通り、使用人が誰もいなかった。一見豪華な屋敷も、
埃の積もったテーブルや額縁が目立ってしまい、どことなく静けさを感じる。
「掃除、していないのかしら」
「誰かが出入りした形跡は残っている……な」
無論、床にも積もるものは積もっていた。よくよく見てみれば、足跡がついているのである。
妙にその跡が大きいのが気になるのだが。
「……で。着いたはいいけど、どーすんだ……?」
セリアスが呟いた数秒後。
「マーキーナーちゃんっ! あっそびに来たよ~っ」
甲高い、艶っぽい女の声がする。四人はあまりにも似つかわしくないその声に、思わずびくりと体を硬直させる。
声の主を見ようとそれぞれ視線を一点に集める。そこにいたのは、明らかに遊んでいいような歳でない
町の住民の大人たち。どやどや、何のためらいもなく、一つの部屋へ向かう様を見て、キルガは
「とりあえず、ついていくか?」
苦笑まじりに尋ねるが、もちろん道に(屋敷に?)迷いたくはないので、頷いた。
「……怪しい人みたいだな、ここの住民たちは」
「……僕らも充分に怪しいと思う」
部屋の扉の横に立ち、ほぼ盗み聞き状態である。確かにマルヴィナの言える台詞ではなかった。
さておき、怪しい四人組、自然と黙る。中から、初めに訪れた女の声が真っ先に聞こえた。
「マキナちゃ~ん、遊びに来たよん」
(仕事しろよ、仕事)
と思ったのはセリアスである。
女は手にしたリボンをひらひらさせ、作り笑いを浮かべる。化粧の濃いその表情は結構怖かった。
隣にもいる。武闘家風の、筋肉ムキムキと言うのが一番ふさわしい男である。しかしその右手にあるのは、
爪や棍ではなく、ケーキである。恐ろしいほどに似合っていなかった。
「今日はさ、マキナさんのためにケーキ作ってきたんだ」
武闘家風男、にこやかに嘘をつく。
(……明らかに買ったものだろう……)
と思ったのはキルガである。宿屋で商品として売られていたのを見たことがある。
が、この際それはどうでもよいことであった。一番驚いたのは、マキナの反応である。
「ありがとう。ケ……キ? ケキー? 花瓶に入れて飾っておくわね」
(はぁぁああああああ―――――っ!?)
心の中で絶叫をあげたのはマルヴィナだけではないが、声にあげていたら彼女が一番うるさかっただろう。
「もー、あんたは黙ってなよ! ……ね、マキナちゃん。いっつもおんなじリボンしてるでしょお?
新しーの、あげるー」
(……この喋り方、この町の特徴なのかしら)
と思ったのはシェナである。
が、やはり気になるマキナの反応は、簡潔であった。
「いらない!」
(四文字かよ!!)
これはさすがに、四人同時に思った。
もちろん、即答で拒絶された女は焦り、説明を始める。
「な、何でっ!? 色も模様も可愛いし、」
(……流行遅れよ、それは)もちろんシェナである。
が、マキナ、聞く耳持たず。
「いらないったらいらない! これは大切なおともだちとお揃いだもん。いらない、帰って。もう絶交よ!」
「ちょ、ちょっと、待ってよぉっ」
その様子を耳に、盗み聞きの四人、沈黙。
「…………強敵だ」マルヴィナ、
「恐るべし女神の果実、……よね?」シェナ、
「つか女神より悪魔では……?」セリアス、
そして、
「……誰が話す? 船のことは」
キルガがぽつり呟く。
「……………………………………・」
もちろん、うまく話す自信のない四人は、思い切り黙り込む。
「……仕方ない。多数決だ。せーので、行くに相応しい人を指差す。いいか?」
マルヴィナが言い、異議はない。
「……せーの」
びし!
マルヴィナが指したのはシェナ。シェナが指したのはセリアス。
セリアスが指したのはキルガ。キルガが指したのはマルヴィナ。
「…………………………………………………………」
長~い沈黙。
「……1対1対1対1……」
「……どする?」
答えはない。こうなったら四人全員が行くか、とセリアスが言いかけた時。
「1対1対1対2ヨっ」
別な声が遮る。……無論、この独特な話し方は、マルヴィナのフードを住処とするサンディであった。
「はい?」
問い返す四人に、サンディは得意げに胸をそらす。
「だってアタシ、マルヴィナ指してマスから」
言いながら、サンディは長い爪をマルヴィナに突きつける。
「……は?」マルヴィナがやや遅れて反応し、
「……なら、多数決でマルヴィナ?」キルガ、
「そーみたーい」シェナ、
「……がんばれー」セリアス。
「ちょ……ちょっと待て、そんなんアリか―――――っ!?」
叫びこそしなかったものの、マルヴィナは心の中で屋敷をひっくり返すほどの勢いで虚しく抗議した。

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